音楽ハードウェア
2020年3月に、Qu-Bit Electronix社(以下、Qu-Bit社)がKickstarter(クラウド・ファンディング・サービス)で自社のDaisyプラットフォームのキャンペーンを実施した際、音楽業界の状況は現在と大きく異なっていました。当時のシンセサイザは、「モジュール式」と「アナログ式」が同義であり、同社が「モジュール式デジタル・シンセサイザ」というまったく新しいカテゴリを作り出したとき、ミュージシャンやサウンド・デザイナーは懐疑的な見方をしていました。
その当時、多くの人が「デジタル」は「高消費電力」かつ「高レイテンシ」なものと考えていました。レコーディングの際のディレイを好むミュージシャンはいません。Qu-Bit社は、このような固定観念を解消するため、デジタル・パラメータとデバイスの消費電力を改善し、斬新で革新的な音声サンプルを顧客に提供しました。
Qu-Bit社の業界では、一般的に独立して活動するユーザが多いため、業界で認めてもらうには小規模であっても驚異的な性能を実現する必要がありました。Qu-Bit社はSTのサポートにより、Kickstarterの支援者を納得させることができ、初のソリューション・ライセンスを競合他社に供与する準備を順調に進めています。
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高速動作、高分解能ADコンバータ、優れた低消費電力を持つSTM32H7マイコンにより、組込み音楽ハードウェアの新たな可能性が開けました。
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Andrew Ikenberry氏, Qu-Bit Electronix社 最高経営責任者(CEO)
新たな音声合成技術に対するQu-Bit社の継続的な投資に加え、同社の高性能ノブ設計もモジュール式デジタル・シンセサイザに対する抵抗感の払拭に貢献しました。最新の製品ラインは65,536ステップの16 bitコントローラを備えており、最も批判的な愛好家であっても、アナログ・ソリューションとの違いに気づくことは不可能です。
低レイテンシのノブ設計と大量のデータ・サンプリングに対応するには高い処理能力が必要なため、STM32H7マイコンが最適でした。STM32H7マイコンは、GPIOとUSBコネクティビティの汎用的な機能性に独自のDSP機能と480MHzのクロック・レートを統合しています。Qu-Bit社は、高い処理能力を備えたSTのマイコンを採用することで、サウンド・エンジニアや実験音楽のミュージシャンから高く評価される革新的なサウンドを作り出すことができました。
この時点で、Qu-Bit社はデジタルがアナログに劣らないのみならず、より優れたものであることを証明しました。同社のフェーズ・ボコーダは、アナログ・ソリューションに存在しなかった新しいエフェクトである「タイム・ストレッチ」を実現しました。従来のモジュール式シンセサイザには、リバーブ、ディレイ、タイム・ストレッチ、サンプラといったエフェクトはありませんでした。
Qu-Bit社がSTM32H7マイコンを採用した理由は、技術的な仕様だけではありません。コロナ禍の影響で、多くのホビー・ユーザがKickstarterのキャンペーンに参加した際、Qu-Bit社は10,000個のチップがすぐに必要になりました。このような状況に対し、STが迅速に製品を納入することで、Qu-Bit社や業界における他社の成長に貢献しました。
Qu-Bit社は、STとのパートナーシップを継続しつつ、ミュージシャンが直面する課題に対応するため、消費電力の最適化を重視した革新を続けています。これらのイノベーションすべてが、革新的なサウンド・エフェクトと新たな音の原動力となっています。
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STの対応は迅速で、2日以内に必要なチップを提供してくれました。
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Andrew Ikenberry氏, Qu-Bit Electronix社 最高経営責任者(CEO)