パーソナル・コンピュータ
2020年、世界各地で働く何十億もの人々が、オフィス・ワークとテレワークを組み合わせたハイブリッド・ワークの環境に置かれました。以来、業務用PCは、オフィスのデスクだけでなく、自宅などを含む複数の環境で使用されています。
このような働き方の変化が恒常化すると考えたHP社は、同年にコンテキスト認識機能を備えた世界初のPC「EliteBook 1000」を発表しました。業務用として設計されたこの製品は、エッジAI機能を備えたSTの超低消費電力6軸 IMUによって従業員の環境を検出し、その状況に応じてPCの設定を自動的に調整します。
また、これらの機能は、きわめて低い消費電力で実現されています。
センサがデータ収集以上の機能を果たす世界を想像してみてください。発売当時、初めてAI機能を搭載したSTの6軸IMU「LSM6DSOX」は、革新的な製品でした。この小型で常時オンのセンサが環境の観察、データ処理、機械学習アルゴリズムの実行を担います。このように高度な自律性とインテリジェンスを実現するために、LSM6DSOXには、小型で強力なハードウェア・ブロック「機械学習コア」が内蔵されています。
これにより、従来アプリケーション・プロセッサが担っていたアルゴリズム実行をセンサ側で処理できるようになり、プロセッサの負荷軽減が実現しました。
これは、パーソナル電子機器分野において革新的な進歩です。エッジAIを活用し、高い電力効率と状況認識機能の実装の両立を可能にすることで、次世代スマート・デバイスの基盤が確立されました。
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HPは、STによる業界初のエッジAI機能搭載IMUを活用した、「テーブルの上」や「膝の上」といった状況の自動認識モードを搭載した世界初のPCを発表しました。
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Leng LIM氏, HP社 コマーシャル・アーキテクチャおよびテクノロジー担当バイスプレジデント
HP社はSTのエキスパートと緊密に連携し、デバイスやユーザの動きに基づいて、ユーザの様々な活動を認識するAIモデルを開発し、学習させました。「机上に置かれている」、「ユーザの膝の上に載っている」、「鞄に入れて持ち運ばれている」など、いくつかの想定された状態に対応しています。HP社内の様々な部署が実験を行うボランティアとなって、このようなユースケースに対応する行動を取り、そこから一意のモーション・パターンを収集、分析したうえで機械学習ツールに入力します。このようにして、HPのPCに特化したAIモデルが作成されました。センサに組み込まれた機械学習コアがこのAIモデルを実行することで、HP社のPCはユーザの状態変化を検出し、反応します。
STは、2020年、当時最新の製品だったLSM6DSOXをHP社に提供しました。同製品は、高性能の加速度センサとジャイロセンサを搭載した6軸IMUです。機械学習コアを内蔵しているため、わずか34 µAで動作するエッジAI機能を備えています。
これにより、HP社の開発者は、バッテリ寿命への影響を最小限に抑えたコンテキスト・アウェア機能搭載ノートPC「EliteBook 1000」を生み出すことができました。
機械学習コアは、「データ取得」、「ラベル付け」、「無償ツールによるディシジョン・ツリー構築」、「アプリケーションへの組込み」、「データのリアルタイム処理」というわずか5ステップで最大8つのディシジョン・ツリー実行を可能にします。このように、きわめてシンプルな機械学習コアによって、超低消費電力のAI機能が実現しました。また、シンプルかつ高い信頼性を備えているため、ディシジョン・ツリーを追加しても、1つあたりの消費電力はSLEEPモードの電力と同程度しか増加しません。そのため、アプリケーション・プロセッサをスタンバイ状態し、本来求められる動作のために電力を温存させることができます。
コンテキスト認識機能は、既にその価値が実証されています。PC業界におけるグローバル・リーダーの地位を確立しているHP社は、STと協力してパーソナル電子機器業界に新たな基準を打ち立てました。
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EliteBook 1000は、熱および電力の状態をインテリジェントに制御することで、PCをデスク以外の場所でも快適に使用できるようにするとともに、外出先でのバッテリ寿命を最大化する世界初のコンピュータです。
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Nick Thamma氏, HP社 カメラおよびセンサ・アーキテクチャ担当マネージャ