先端CMOSプロセス技術において、従来のフローティング・ゲート構造の組込み型不揮発性メモリ(eNVM)を実装するのには大きな技術的課題が伴います。このような課題に対し、Flashメモリ技術と根本的に異なる素材とその性質を利用した不揮発性メモリ (NVM)技術が注目されています。その1つが、相変化メモリ(PCM: Phase Change Memory)です。
PCMの基本的な仕組みは、1960年代にStanford Robert Ovshinsky氏によって発明されました。STはこの最初の開発に基づく特許ライセンスを取得しており、その画期的な研究を発展させてきました。
PCMは、ゲルマニウム・アンチモン・テルル(GST)合金で構成され、急速な加熱・冷却制御によってGSTがアモルファス相 (高抵抗)と結晶相 (低抵抗)にそれぞれ変化する性質を利用しています。電気抵抗の異なるこの2つの相が論理値0と1に対応しており、高抵抗状態のアモルファス相が論理値0、低抵抗状態の結晶相が論理値1となります。低電圧での読出しおよび書込みが可能なPCMには、Flashメモリやその他の組込み型メモリ技術と比較して非常に優れたメリットがあります。
FD-SOIプロセス上に実装された組込み型PCMビットセルの断面図。図中のヒータにより、メモリ・セルが結晶相またはアモルファス相に急速に変化する。
STは、要求の厳しい組込み型プロセッシング・アプリケーション向けの革新的なソリューションとして、FD-SOIとPCMを組み合わせたプロセス技術の開発に先駆的に取り組んできました。バルクCMOS上に形成される従来のフローティング・ゲート型eNVMと比較して、性能向上や低消費電力化を実現するとともに、より大きなメモリ容量や高集積化が可能です。
現在、先進的なマイコンの多くに40nmバルクCMOSのeNVM技術が使用されています。これに対し、18nm FD-SOIとePCMの組み合わせは、次のようなメリットを提供します。
これらは、高性能、超低消費電力、ワイヤレス製品など、幅広いマイコンにメリットを提供します。
PCMは、Flashメモリと比較してきわめて高いメモリ密度を実現します。
PCMは、1bit単位で書き変えが可能なため、書込み性能が大幅に優れているだけでなく、Flashメモリと同等の読出し性能も実現します。さらに、STの特許取得済み技術により、リフローはんだ実装時などの高温ストレス下でもデータ保持には影響が無いため、予めデータを書き込んだ後、基板への実装を行う事も可能です。
STのPCM技術は、高温動作、放射線耐性、データ保持の堅牢性を実現できるように開発・評価されています。
PCMの動作温度範囲は最高+165℃で、車載用規格であるAEC-Q100 Grade 0の要件を満足しています。
STのPCM + FD-SOI技術は、18nmプロセスにおいても3V動作が可能です。これは、DAコンバータやパワー・マネージメントといったアナログ機能の実装においてきわめて重要です。STのPCM + FD-SOI技術は、20nm以下のプロセスで唯一3V動作を実現する技術です。
処理能力の向上、消費電力削減、メモリの大容量化といったアプリケーション側のニーズが、マイクロコントローラ・アーキテクチャの性能を高めています。特に重要な課題の1つが、内蔵メモリの大容量化です。
PCMは、このようなチップ・レベルおよびシステム・レベルの課題を解決するとともに、車載機器および産業用機器の厳しい要件に対応します。また、STの技術により、リフローはんだ実装のような高温環境下や、放射線下においても優れたデータ保持能力を実現しています。
STは既に、PCMとFD-SOIを組み合わせた28nmプロセス製品を車載および航空宇宙アプリケーションに提供しています。これらの技術を組み合わせた最新の18nmプロセスは、STの次世代STM32マイコンをはじめとする産業用アプリケーションの開発者に、さまざまなメリットを提供します。